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すき焼き

すき焼き
昨日実家に用事があり夜7時頃に出向いた。北越谷駅を降りて文教大学沿いの土手を歩いていく。ここは春になるとそれわそれわ見事な桜の乱舞が楽しめる。木が低いため桜のトンネルが出来上がり、その下では老若男女生き物全てが時を忘れて赤ん坊に戻る。いうなれば桜のタイムトンネルなのか。

野良犬が寒そうにトボトボとあてもなくゼンマイ仕掛けのおもちゃのようにぎこちなく歩いていた。この寒いのもあと3ヵ月だから少しはぬくいもの食べて頑張れよ、などと思っていたら後ろからピューと口笛が聞こえた。どうやらご主人様がいたようで、なんだかホッとする。勝手に野良犬なんて思ってこりゃまたスマン。と思いながら野良犬もどきを見ていると一目散に駆け寄ってきた。わあ、と驚く間もなくよく見たら我が家の駄犬だった。あれ、と母親が僕を見て頓狂な顔をした。傍らではフンフン鼻を鳴らして僕の足に顔をこすりつけている。

この時期にはめずらしく夜になっても全く北風が吹いていない。母親と二人で歩くなんて何年ぶりだろう。どちらからともなく仕事のことや、昨今の派遣切りのこと、近所でまた空き巣が出たことや、身内のこと、そんなことをしゃべりながら野良犬もどきの鼻歌ならぬ鼻息をバックミュージックに家路につく。

玄関を開けて居間に入るとテーブルの上がクラッカーをぶちまけたかのようにワサワサと緑だの白だの赤だのと彩ってある。電気をつけてよく見たら白菜、ネギ、春菊、エノキ、牛肉、豆腐、そのほかにもいろいろと波うつ食べ物達のその姿に困惑していると、ネギは下仁田ネギが一番、と得意げな顔をして調理をはじめた。あんたの為に今日買ってきたのよ、などと言われてなんだかこっぱずかしいやら。こんなに早く来ると思わなかったからさあ、とひとまず風呂にでも入れとすすめられ、出てくるころにはこっちも出来上がってるなんて言っておいて風呂上がりの火照ったカラダで居間にもどると空の鉄鍋の前でジッとしていて何やら考えている母親がいた。どうしたのか聞くと鍋が一向に熱くならないと再び口をへの字にまげながら電気コンロ壊れたかしらとつぶやく。ダイヤルが最小になってるよ、とクリクリクリクリと最大まで上げるとエイの裏っかわのような変な顔で笑って、なあんだ、と一言。ビールのプルタブをカプリと開けてやおらグラスを取り出し、まあまあ、と照れくさそうについでくれた。これでも飲んでいるうちに出来上がるから待ってなさい、と何事もなかっ
たように鍋に油を敷き始めた。

おわんに玉子を一つ、ポカリと割ると満月のような綺麗なキミが出てきた。

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